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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)3736号 判決 1992年6月18日

反訴原告

松根勝美

反訴被告

吉川善市

ほか一名

主文

一  反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金四八四万三八八七円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その一を反訴被告らの負担とし、その余を反訴原告の負担とする。

四  この判決は一項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六〇年一〇月二六日午前〇時ころ

(二) 場所 大阪府東大阪市本庄五七五番地先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(なにわ四四す七二〇一)

右運転者 反訴被告吉川善市(以下「反訴被告吉川」という。)

(四) 被害車両 普通乗用自動車(大阪五五か四九五八)

右運転者 反訴原告

(五) 事故態様 加害車両が信号待ちのため停車中の被害車両に追突し、反訴原告が負傷した。

2  責任原因

(一) 反訴被告吉川には、本件事故発生につき、前方不注視の過失がある。

(二) 反訴被告株式会社松田工務店(以下「反訴被告会社」という。)は加害車両を自己の運行の用に供し、また、使用者として反訴被告吉川に加害車両の運転業務をさせていた。

3  受傷内容、治療経過及び後遺障害

(一) 反訴原告は、本件事故により、外傷性頸椎症、腰部捻挫、両上肢不全麻痺及び胸郭出口症候群等の傷害を負い、左記の入通院をしたが、昭和六二年一〇月八日、大阪市立城北市民病院(以下「城北市民病院」という。)において、頭痛、頸背部痛、左上肢機能完全不能、病的反射出現、左上肢全体知覚鈍麻、左三角筋、同上腕二頭筋、同三頭筋及び前腕筋の各筋力喪失の各後遺障害につき症状固定の診断を受けた。

(1) 河北病院

通院 昭和六〇年一〇月二八日から昭和六二年三月二七日まで(但し、入院期間を除く。)

入院 昭和六一年一二月九日から同月一六日まで

(2) 国家公務員共済組合連合会大手前病院(以下「大手前病院」という。)

通院 昭和六一年五月二六日及び同年一〇月一三日

(3) 前野整形外科クリニツク(以下「前野整形外科」という。)

通院 昭和六一年一一月四日から昭和六二年一〇月八日まで

(4) 大阪市立城北市民病院(以下「城北市民病院」という。)

通院 昭和六一年一一月二七日から昭和六二年一〇月八日まで(但し、入院期間を除く。)

入院 同年三月三〇日から同年五月二日まで

(二) その後、反訴原告は、右上肢の症状が悪化し、左記の入通院をしたが、昭和六三年一一月二日、城北市民病院において、右上肢機能不能に近い、頭痛、頸部痛、背部痛、握力喪失、右尺骨神経領域知覚鈍麻の各後遺障害につき、症状固定の診断を受けた。

(1) 城北市民病院

通院 昭和六二年一〇月九日から昭和六三年一一月二日まで(但し、入院期間を除く。)

入院 同年八月二二日から同年九月一〇日まで

(2) 前野整形外科

通院 昭和六二年一〇月九日から昭和六三年一一月二日まで

4  損害

(一) 治療費 金六万七七四九円

(1) 河北病院分 金六八〇四円

(2) 城北市民病院分 金四万五五九五円

(3) 前野整形外科分 金一万五三五〇円

(二) 入院雑費 金九万三六〇〇円

1,300×72=93,600

(三) 通院交通費 金二八万八四四〇円

(1) 河北病院分

340×2×318=216,240(円)

(2) 城北市民病院

300×2×58=34,800(円)

(3) 前野整形外科病院

170×2×110=37,400(円)

(四) 休業損害 金一四八三万四三一四円

反訴原告は、本件事故当時、トモエタクシー株式会社に勤務するとともに、その傍ら、紅栄産業建設株式会社にも勤務し、少なくとも四二歳男子平均給与額である一か月金四三万二九〇八円の給与を得ていたところ、本件事故により昭和六〇年一〇月二六日から昭和六三年一一月二日までの三四か月と八日間、休業を余儀なくされ、頭書金額の損害を被つた。

(計算式)

432,908×(34+8/30)=14,834,314

(五) 入通院慰謝料 金三〇〇万円

反訴原告は、前記のとおり、本件事故により入院約二か月と通院約二一か月の治療を余儀なくされ、その間就労不能が続き、ローン返済が不能となつて自宅を競売され、保証人に迷惑を掛けるなどして、その生活が壊滅的打撃を受けた。

(六) 後遺障害慰謝料 金二〇〇〇万円

(七) 後遺障害による逸失利益 金八二六四万九六四六円

反訴原告は、本件事故がなければ就労可能な二二年間にわたり毎年平均賃金相当額五六六万八七〇〇円の収入を得ていたはずのところ、前記後遺障害により、その労働能力を一〇〇パーセント喪失し、右得べかりし収入を失つた。

5,668,700×14.580=82,649,646

(14.580はホフマン係数)

(八) 弁護士費用 金三〇〇万円

5  よつて、反訴原告は、反訴被告会社に対し、運行供用者責任又は使用者責任に基づき、反訴被告吉川に対し、不法行為に基づき、損害賠償の内金として各自三〇〇〇万円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和六〇年一〇月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否等(反訴被告ら(以下同じ))

1  請求原因1(事故の発生)は認める。

2  同2(責任原因)のうち、反訴被告会社が本件事故当時反訴被告吉川をして運転業務に従事させていたとする点は否認し、その余は認める。

3  同3(治療経過等)のうち、入通院及び診断の各事実は認め、本件事故による受傷の有無、本件事故と因果関係のある後遺障害の存在はいずれも否認する。

4  同4(損害)につき、本件事故との因果関係のある損害の発生は否認する。

5  (反訴被告の主張)

(一) 反訴原告の症状中、両上肢自動運動不可ないし両上肢全廃は詐病であり、その余の症状は既往の頸椎癒合、頸部脊柱管狭窄、頸部脊椎症、頸部椎間板ヘルニア、頸椎不安定性等の頸部疾患か、または、右疾患を原因とする二次性胸郭出口症候群が原因であり、さらに、心身症素因も介在しているものであつて、いずれにしても本件事故とは無関係である。

(二) 反訴原告は、本件事故に先立つ昭和五九年一〇月六日、タクシー乗務中、乗用車に側面から衝突され、その際、車内に転倒し、頭部外傷Ⅰ型、頸椎捻挫、前額部挫創、胸部打撲、右第七肋骨骨折、左足・左肘各打撲等の傷害を負い、昭和五九年一〇月八日から同年一二月八日まで阪本病院に入院したのち、同月一三日から同病院に通院し、昭和六〇年八月二九日に症状固定とされたが、その後も本件事故の前日である昭和六〇年一〇月二五日まで通院を継続した。その間、反訴原告は、同年九月一二日には頸部のだるさ、左手のしびれ等を訴え、また、同年一〇月二五日には頭重感などを訴えて、大後頭神経ブロツク注射及び肩及び背に浸潤ブロツク注射を受けていた。

したがつて、本件事故後の反訴原告の症状は、前回事故の際の受傷によるものであり、また、そうであるにもかかわらず、反訴原告が河北病院及び前野整形外科において、前回事故後の症状に関し虚偽の申告をしたことから、右各病院の医師らは、反訴原告の症状を本件事故によるものであると誤つて判断するに至つた。

三  抗弁(損益相殺)

反訴原告は、本件事故に関し、反訴被告らから六二四万九四四〇円の支払を受けた。

(一)  治療費

(1) 河北病院分(昭和六〇年一〇月二八日から昭和六一年一〇月七日まで) 一〇八万八五二〇円

(2) 大手前病院分(昭和六一年五月二六日から同年一〇月一三日まで) 九八六〇円

(二)  休業補償 四一〇万一〇六〇円

(三)  内払金 三〇万円

(四)  自賠責保険金 七五万円

四  抗弁に対する認否

認める。ただし、治療費は本訴請求外の分に対する支払である。

理由

一  請求原因1及び2のうち反訴被告吉川の過失及び反訴被告会社の運行供用者性は、当事者間に争いがなく、反訴被告らは本件事故により反訴原告に生じた損害を賠償すべきことになる。

二  請求原因3について

1  反訴原告の症状及び治療の経過

(一)  本件事故以前の身体状況

成立に争いのない甲第二三号証ないし第二八号証によれば、以下の事実が認められる。

反訴原告は、昭和五九年一〇月六日、タクシー乗務中、交差点において側面から乗用車に衝突され、頭部外傷Ⅰ型、頸椎捻挫、前額部挫創、胸部打撲、右肋骨骨折等の傷害を負い、同月八日から同年一二月八日まで大阪府大東市所在の蒼生会阪本病院に入院するとともに、退院後も同病院に通院し、昭和六〇年一月一七日に治療が打ち切られるころまでには、症状は徐々に軽快していたが、同年七月一日、タクシー乗務を再開すると再び強い頭痛、右頸部痛が出現したなどとするほか、右上肢の脱力感、頸部運動制限などを訴えて、阪本病院を再受診し、同病院通院中、同年八月六日には、無気力、だるさ、右前腕部のしびれ感を訴え(頸部可動域は、前屈五〇度、後屈一五度、左屈一〇度、右屈一三度、左回旋三〇度、右回旋四五度、握力は左二九キログラム、右二六キログラム。)、湿布、頸椎牽引、肩・背浸潤ブロツク等の治療を受けたほか、同年八月ころには頭重感及び目の疲れを訴えて眼科を受診したりしていたところ、同月二九日に後頸部及び背部の筋肉の凝り、頭痛ないし頭重感、目のかすみ、後頭神経領域の痛み及びしびれ、回旋又は側屈時の右頸部痛、右前腕の軽度しびれ、頸椎運動制限(前屈三〇度、後屈一五度、右屈一五度、左屈一〇度、右回旋五五度、左回旋四五度)の症状を残して症状固定と診断された。もつとも、反訴原告の阪本病院への通院はその後も続き、同年九月一二日にも頸部倦怠、右腕しびれ持続、頭重感を訴え、本件事故に近接する時期においても、事故の前日である同年一〇月二五日を含めて一週間から二週間に一度ほどの割合で大後頭神経ブロツク、肩・背浸潤ブロツクなどの治療を受けていた。

(二)  本件事故後の症状経過等

成立に争いのない甲第一〇号証ないし第一九号証、乙第一号証の一ないし五、第二号証、第三号証、第六号証ないし第一〇号証、第一四号証、第一九号証、第二四号証、第二五号証の一、二、第二六号証、第二九号証、証人中本達郎の証言(「中本証言」)並びに原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(1) 河北病院における症状及び治療の経過

反訴原告は、本件事故後、自ら警察に通報し、さらに警察官の指示により事故現場から一〇分ほど歩いて警察署に赴き、調書を録取された。そして、事故後二日目の昭和六〇年一〇月二八日、本件事故時に「ぎくつ」となつたが放置していたところ頸部疼痛が増強したとして、河北病院を受診し、同病院において、外傷性頸椎症により向後二週間安静通院加療を要すると診断され、物理療法(ホツトパツク、低周波)、注射及び投薬による通院治療を開始したが、同月三〇日ころから、両上肢のしびれ、後頭部から両肩部にかけての痛み、目のかすみを、翌一一月六日ころから、右に加えて腰痛を訴え出し、次第に、両手のむくみ(腫脹感)、物がつかみにくい、ハンドルが握れないなどと訴えは高度になり、受診当初からそれまでにかけては左右とも二〇キログラム前後だつた握力検査の結果も、翌昭和六一年七月ころからは左が一五キログラム以下に、右も一五キログラム前後にいずれも低下し、さらに同年九月ころまでには左右とも一〇キログラムを下回るようになつた。その間、反訴原告は、牽引やマイクロ波の物理療法(のちに牽引も追加)、投薬、注射等のほか、神経ブロツクも頻繁に受けたものの、前記の症状はいずれも軽減せず、同年七月ころから両上肢、特に左上肢の細りが見られるようになり、筋力も低下して、上肢の挙上に難渋を来たし、茶椀や箸が持てないなどと訴え、同年一一月八日の河北病院の医師の後遺障害診断では、症状は未だ固定せず増悪進展中とされた(なお、その際に測定された上肢最大周囲は、上腕右二六・五センチメートル、同左二四・五センチメートル、前腕右二七・五センチメートル、同左二五センチメートルであつた。)。なお、検査入院(昭和六一年一二月九日から同月一六日まで)後の同年一二月一七日の診断では、鎖骨下動静脈に全く異常なし、両上肢麻痺は頸椎神経損傷によるものとされ、昭和六二年三月の診断では、症状増悪し現況では就労不能とされた。

(2) 大手前病院における診断

反訴原告は、保険会社の依頼により、河北病院通院中の昭和六一年五月二六日と同年一〇月一三日の両日、大手前病院整形外科を受診し、頭痛、項部痛、手指の屈曲困難などを訴え、その際、同科の診察によれば、両上肢の浮腫、筋力低下(握力左九・五キログラム、右一一キログラム)及び知覚障害、頸椎運動制限(前屈四〇度、後屈三五度、右屈一五度、左屈一五度、右回旋四五度、左回旋三五度)、スパーリングテスト、両上肢伸展テストにおいて両前腕尺側に放散痛、第二ないし第四頸椎棘突起、左傍頸椎部並びに大後頭神経に圧痛、ホフマン反射両側陽性(但し、腱反射著明亢進なし。)、両上腕二頭筋に萎縮、第二、第三頸椎間に癒合椎、第五腰椎に分離症、第四、第五腰椎棘突起、傍脊椎部、左上臀神経に圧痛が見られるとされ、同日、頸部・腰部捻挫(腰椎分離症)、バレー症候群の診断のもとに右各症状につき症状固定とされた。

(3) 城北市民病院における症状及び治療の経過

反訴原告は、前記河北病院通院中に別途受診(昭和六一年一一月中に四回通院)した前野整形外科の紹介により、昭和六一年一一月二七日、城北市民病院を受診し、両手に腫脹、橈側に知覚障害が見られる、反射に異常はないもののライトテストは左右とも陽性などとされた。その後、反訴原告は、昭和六二年三月三〇日、胸郭出口症候群の病名のもとに同病院に入院し、左鎖骨下動脈造影にて異常が認められるとされ、同年四月一〇日、同病院において中本達郎医師による左前斜角筋、同中斜角筋切離、同第一肋骨切除、神経剥離の手術を受け、同年五月二日に退院した。なお、手術時の所見として、索状物の存在、左中斜角筋の硬化、神経の変性が認められるとされた。

その後も反訴原告は、同病院に通院を続けたが、頭がボーとすると訴えるとともに、左上肢の握力は回復せず、斜角筋にも圧痛が見られ、しびれも継続するとして、同年一〇月八日に、中本医師により、胸郭出口症候群、頸部挫傷の傷病名で、頭痛、頸背部痛、左上肢機能全喪失(左三角筋、上腕二頭筋、同三頭筋、前腕筋の各筋力〇、握力〇)の後遺障害を残し、改善は見込まれず症状固定と診断された。

さらに、右の症状固定診断の時点での右上肢の自動可動域は、肩関節前挙一八〇度、同後挙四〇度、肘屈曲一四〇度、手背屈三〇度、掌屈三〇度であつたところ昭和六三年一月ころから、右上肢に関し、知覚鈍麻などを訴え始めて、それが徐々に悪化し、同病院における同年四月の診断では、左上肢機能は全廃状態にあるうえに右側も同様の症状になりつつあり、反射やや亢進、病的反射出現、知覚鈍麻ありとされ、同年八月二二日、同病院に再入院した(なお、再入院当初の徒手筋力テストの結果は、右については三ないし四であつた。)。そして、同年八月二二日の頸部脊柱管のミエロ検査では第二、第三頸椎の癒合及び脊柱管狭小が認められる一方、同月二四日の右鎖骨下動脈造影では、ライト肢位において狭小が認められたため、同年九月二日、中本医師により右上肢につき、前中斜角筋、第一肋骨の各切除、神経剥離の手術が施行され、同月一〇日まで入院となつた。なお、手術時の所見では、右前斜角筋はほぼ正常であつたが、中斜角筋は索状化が見られ、神経はまだ弾力性があつたものの光沢が減少し癒着があつたとされた。退院後、なおも反訴原告は、右腕尺骨神経領域のしびれや脱力感の増強を訴えるとともに、頸部痛の訴えも継続し、同年一一月二日、胸郭出口症候群及び頸部挫傷の傷病名のもと、腱反射低下、病的反射出現、右三角筋、同上腕二頭筋、同三頭筋等の各筋力〇、握力左右とも〇、右上肢可動域制限(他動で肩関節前挙一六〇度、同後挙四〇度、肘屈曲一四〇度、手背屈三〇度、同掌屈三〇度、自動で肩関節前挙一〇〇度、同後挙一〇度、肘屈曲九〇度、手背屈一〇度、同掌屈一〇度)が見られ、頭痛、頸部痛、背部痛、右上肢機能不能に近い、同握力〇、同尺骨神経領域知覚鈍麻の自覚症状あり、症状改善は見込まれないとの後遺障害診断を受けた。

(4) 前野整形外科における症状及び治療の経過

反訴原告は、昭和六二年五月二日に城北市民病院を一旦退院した後、同月六日から前野整形外科に通院し、静脈注射、ホツトパツク、運動訓練、頸椎牽引、投薬等の治療を受けたが、同年八月一一日の診断では上肢浮腫、同疼痛、同運動障害が継続しているとされ、同年一〇月七日の診断でも右上肢は腫脹、筋弱力等があるもなお自動可能だが、左上肢は自動不能のため機能全廃とされ(他動可動域は右肩屈曲九〇度、同伸展二〇度、同肘屈曲一〇〇度、同手背屈三〇度、同掌屈七〇度、左肩屈曲五〇度、同伸展〇度、同肘屈曲〇度、同手背屈掌屈とも〇度、握力左一キログラム、同右六キログラム)、昭和六三年一月二七日まで通院した。

また、反訴原告は、昭和六三年九月一〇日に城北市民病院を退院した後、再び同月一四日から前野整形外科に通院し、以後、前回の通院と同様の処置を受け(一時、神経ブロツクの併用あり)、平成三年八月二三日の診断においても頸腕症候群、末梢神経障害の病名で通院加療中とされた。

2  鑑定時の症状及び所見

鑑定人竹下満の鑑定(「竹下鑑定」)によれば、平成二年七月六日以降の鑑定時における反訴原告の症状、診察・検査所見は以下のとおりである。

(一)  主訴

両上肢自動運動不可、後頸部から両肩甲部にかけての痛み及び重量感、両上肢のしびれ

(二)  診察所見

(1) 頸部につき、前屈を除く全方向に軽度運動制限あり、運動時後頸部痛あり、神経根刺激テスト陽性

(2) 胸郭部出口部での圧迫所見なし、斜角筋三角部での神経被刺激性あり

(3) 上肢関節につき、両肩に多方向不安定性あるも痛みなし、指関節の軽度拘縮以外、上肢関節に拘縮なし

(4) 上肢筋群につき、徒手筋力テストにおいて肩関節動作筋以下指運動まで少なくとも重力に抗して全可動域自動不可、握力〇、両三角筋に軽度筋萎縮あるほか明瞭な筋萎縮認めず(なお、上肢周囲径上腕右二八センチメートル、同左二六・五センチメートル、同前腕右二七・〇センチメートル、同左二五・五センチメートル)、筋緊張正常範囲

(5) 知覚につき、両上肢全体にほぼ均等な知覚低下を認め、橈側近位においてその傾向が強い、知覚乖離なし、振動覚低下なし

(6) 腱反射につき、上下肢ともに正常、病的反射なし

(三)  検査所見

(1) 単純X線において、頸椎につき、第二、三頸椎癒合、脊柱管狭窄、第三、四頸椎軽度不安定性、椎間孔狭小、その他につき、左肩甲帯下降、右第一肋骨残存、両肩下方不安定性

(2) 腕神経叢造影において、両側神経叢の緊張(牽引)あり、左側肋鎖間隙部軽度圧迫、右側斜角近位の造影剤浸入なし

(3) 頸部脊髄造影において、頸椎第四、五及び同第五、六レベルに前方より脊髄圧迫所見、左第四ないし第六神経根像欠損

(4) 頸部CT検査において、頸椎第四、五レベルに前方中央からの圧迫のため脊髄形態変化あり、右側椎間孔相対的狭小

(5) 頸部MRI検査において、頸椎第四、五間及び第六、七間の椎間板レベルで脊髄がブーメラン型に軽度変形あり、同第四、五間(強度)、第五、六間、第六、七間にてヘルニア、同第四ないし六間にて脊柱管前後径狭小

(6) 三角筋生検において、神経性筋萎縮所見あり

(7) 筋電図検査(両上肢筋群と頸椎部傍脊柱筋をチエツク)において、右三角筋に神経原性異常波形、他の筋群は正常範囲であり、安静時でも脱神経性の異常波形出現なし

(8) 神経伝達速度測定(腕神経叢部で尺骨神経をチエツク)において、正常所見

(9) 強さ時間曲線測定において、上肢支配神経(筋支神経、正中神経、尺骨神経)につき正常範囲所見、神経麻痺なし

3  胸郭出口症候群について

弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三号証ないし第八号証、中本証言並びに竹下鑑定によれば、胸郭出口症候群につき、以下の知見を得ることができる。

(一)  胸郭出口症候群とは、腕神経叢と鎖骨下動脈からなる神経血管束が、前・中・後各斜角筋により囲まれた斜角筋三角、鎖骨と第一肋骨で囲まれた肋鎖間隙及び小胸筋下方で構成されるいわゆる胸郭出口付近において圧迫・牽引されることにより循環障害や神経障害を呈する疾患の総称であり、主訴は、上肢の痛み、だるさ、しびれ感が最も多く、次に肩凝り、肩甲部の痛みが多く、その他に頸部の凝り、痛みも訴えることがある。

(二)  胸郭出口症候群の一般的な発症原因は次の通りであるが、多くはそれらが複合的与因となつて発症する。

(1) 先天的要因

頸肋、大型横突起の存在、繊維性異常索状体や最小斜角筋の存在、第一肋骨および鎖骨の位置・形態異常、前・中斜角筋の付着部位の異常、なで肩、肩関節不安定性

(2) 後天的要因

前・中斜角筋の肥厚、肩甲帯保持筋の筋力低下、姿勢異常、肩関節障害などによる肩甲骨下降(なで肩)、その他の肩甲帯に関与する肩関節の異常、肩甲帯の位置関係変化、鎖骨下筋・小胸筋の異常、仕事・スポーツによる負荷、胸郭出口周辺の外傷による出血・浮腫、心因反応

(三)  頸椎捻挫等による外傷による発症について

胸郭出口症候群は、頸椎捻挫等により前・中斜角筋に出血、浮腫が生じ、当該部位が肥厚・繊維化したり、肩甲帯の位置異常を来たしたりすることによつて発症する可能性があり、また、外傷後の長期安静による肩甲帯保持筋の筋力低下や廃用性萎縮により肩甲帯が下降し、なで型を形成することによつて、胸郭出口部を狭くしたり、腕神経叢に過緊張をきたし発症することもある。

(四)  二次的胸郭出口症候群について

頸椎等に病変がある場合に、これによる肩甲帯部の痛みや筋力低下のため、姿勢異常や肩甲帯の位置異常を起こしたり、また、神経根症状のために胸郭出口付近の筋群が刺激され、筋萎縮や筋拘縮(繊維化)を来たしたりすることがあり、これによつて二次的に胸郭出口症候群を発症することがある。

4  以下、1ないし3の認定事実及び知見を前提として、本件事故後から鑑定時に至るまでの症状と本件事故との因果関係の有無を検討する。

(一)  反訴原告の症状について

城北市民病院において、反訴原告につき、頭痛、頸部痛、背部痛、両上肢機能不能、両手握力喪失、右尺骨神経領域知覚鈍麻の後遺障害が残存すると診断されたことは、前認定のとおりである。しかしながら、両上肢の筋力低下については、竹下鑑定によれば、脊髄麻痺の明瞭な所見なく、電気生理学検査から見ても、同人の訴える筋力の低下の全てが器質的病変から起こつているとは考え難いうえに、三角筋を除いた上肢筋群は自動運動が十分に可能な能力を有していることから、そのかなりの部分が詐病若しくは心因的要因によるものとせざるを得ないとされているところ、この鑑定の結果は、前記認定のように上肢周囲径が昭和六一年一一月八日時点において、上腕右二六・五センチメートル、同左二四・五センチメートル、前腕右二七・五センチメートル、同左二五センチメートルであつたのに、鑑定時においては、上腕右二八・五センチメートル、同左二六・五センチメートル、同前腕右二七・〇センチメートル、同左二五・五センチメートルと概して大きくなるなど上肢筋群の萎縮傾向が相当弱まつていること、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三二号証によれば、平成三年ころの上肢の高度機能障害につき疑問を抱かせるような反訴原告の行動が目撃されており、物を押さえるなどの上肢運動は可能であることは反訴原告が自認し、中本医師も肯定するところであることなどの事情に照らし相当といえるものであつて、上肢機能の障害のうちの相当部分について本件事故との間に相当因果関係を認めることは困難といわざるを得ない。

したがつて、その余の症状について検討を進めることにする。

(二)  反訴原告の症状の責任病巣

(1) 竹下鑑定によれば、斜角筋三角部に神経被刺激性があること、城北市民病院での血管造影において鎖骨下動脈に圧迫所見が見られたこと、症状の内容・経過、反訴原告が腕神経叢に対する過牽引を来たし易いいわゆるなで肩及び肩関節の下方不安定性の素因を有していること、さらに、第五頸椎神経根病変に由来する神経根症により胸郭出口部の筋群の萎縮・拘縮(繊維化)が起こつた可能性があることから、反訴原告において胸郭出口症候群が発症した可能性が十分にあることが指摘されるところ、これに前記認定の城北市民病院における診断、特に手術時の所見における両側中斜角筋の索状化、左胸郭出口部の索状物の存在等及び前記胸郭出口症候群の発症要因に関する知見を併せ考えると、反訴原告において、胸郭出口症候群が発症したものと推認される。

(2) しかしながら、竹下鑑定によれば、反訴原告の症状の責任病巣は、前認定の頸椎病変と胸郭出口症候群の双方であるうえに、前認定の頸椎部の各病変に照らすと、反訴原告の症状の相当部分は当初から右病変を主体に推移してきたものとされ、これに大手前病院や城北市民病院における診断においても頸椎病変の存在が指摘されていたこと、頭痛、頸部痛、目のかすみなど胸郭出口症候群よりはむしろ頸椎病変によるものとするほうが一般的であると思われる症状も継続していること並びに城北市民病院における左右第一肋骨等の切除手術によつても反訴原告の症状は全く改善されなかつたことを総合すると、反訴原告の症状は、胸郭出口症候群の関与は否定できないものの、その相当部分は前記頸椎病変によるものと推認され、この点に関し、頸椎病変を軽度とし、それに由来する症状の発現について否定的な中本証言は採用できない。

(三)  本件事故との因果関係

(1) 本件事故後、反訴原告が胸郭出口付近における筋群の出血等を窺わせるような部位に痛みを訴えた形跡はないこと、なで肩や肩関節の下方不安定性の原因となるような長期入院等による安静は、本件事故後、河北病院において胸郭出口症候群と診断されるまでにはなされていないこと、反訴原告は、昭和五九年の交通事故(前記1(一))の際に胸部を打撲していたこと、また、上肢のしびれは本件事故以前にも出現していたこと、反訴原告には手術時において、左胸郭出口付近に主治医としても先天的なものと判断している索状物が存在することが確認されていることは前認定のとおりであつて、これらの事実を併せ考えた場合、外傷による前・中針角筋の出血、浮腫や肩甲帯下降によつて胸郭出口症候群が発症したとは考え難く、本件事故との因果関係は認め難いというべきである。

(2) しかしながら、反訴原告の頸椎病変の主要因は先天性要因(頸椎癒合、脊柱管狭窄)と退行変性(ヘルニア、脊椎症、頸椎不安定性)であるところ、MRI、CT等の検査所見から見て、頸部の脊髄及び神経根はあまりゆとりのない状態にあることから、小さな外力でも神経麻痺を起こす可能性はあるとされるとともに、本件事故以前に頸肩腕痛、頸部運動制限、上肢神経症状がなかつたのであれば、本件事故が発症要因となつたことは否定できないとされていること(竹下鑑定)、反訴原告は、本件事故の約二か月前に、昭和五九年に遭遇した交通事故に由来するものとして後頸部及び背部の筋肉の凝り、頭痛ないし頭重感、目のかすみ、後頭神経領域の痛み及びしびれ、回旋又は側屈時の右頸部痛、右前脇の軽度しびれ、頸椎運動制限の後遺障害診断を受け、また、その後も本件事故当時に至るまで頸部倦怠、右手しびれ持続、頭重感等を訴えて通院加療を続け、肩や背に浸潤ブロツクを受けていたが、本件事故直前の通院頻度が一週間から二週間に一度程度であり、しびれを訴えていた部位は右腕であつたこと、これに対し、本件事故後は、通院も頻繁になつているうえに、明確な頸部痛を訴え、また当初しびれを訴えたのが左腕であつたことなどを考え併せると、本件事故前後において症状に変化があつたというべきであり、本件事故が反訴原告の頸椎病変に由来する症状の増悪機転になつたものと認めることができる。したがつて、この限りにおいて、反訴原告の本件事故後の症状は、本件事故と因果関係があると認められる。

(3) そして、頸椎等に病変がある場合に、これによる肩甲帯部の痛みや筋力低下のため、姿勢異常や肩甲帯の位置異常を起こしたり、また、神経根症状のために胸郭出口付近の筋群が刺激され、筋萎縮や筋拘縮(繊維化)を来たしたりすることがあり、これによつて二次的に胸郭出口症候群を発症することがあること、反訴原告の第四、第五頸椎には、脊柱管狭窄を伴うヘルニアがあり、三角筋には神経原性変化が筋生検によつて確認されていること、三角筋の右変化は右ヘルニアによる可能性が高いこと、胸郭出口部の筋群の萎縮・拘縮(繊維化)は、第五頸椎神経根病変に由来する神経根症に起因する可能性が高いことは、前認定のとおりであり、これらのことからすると、本件事故が反訴原告の胸郭出口症候群につながつた可能性が十分にあることになる。

(4) ただ、反訴原告の頸椎には先天的病変及び退行変性が存するうえに、反訴原告は、本件事故当時既に頸部から肩部にかけての異常及び上肢のしびれを訴えており、その程度も、神経ブロツクなどの処置を要するほどのものであつたこと、反訴原告としても、本件事故後、自ら警察に通報し、さらに警察官の指示により現場から一〇分ほど歩いて警察署に赴き、調書を録取され、事故後二日余り医師の診察を受けないままにするなど本件事故により反訴原告が身体に受けた衝撃は、さほど強いものではなかつたものと推認されることをも勘案すると、前記症状の主たる要因は頸椎の先天的病変及び退行変性にあるということができ、以上総合考慮すると、本件事故が反訴原告の症状に寄与した割合は四割程度と認めるのが相当である。

5  症状固定時期及び後遺障害の内容・程度

前認定のとおり、反訴原告は、最終的には、城北市民病院において昭和六三年一一月二日に症状の改善の見込みがないと診断された時点で症状固定に至つたと認められる。

しかしながら、城北市民病院における診断のうち、両上肢の著明な筋力低下については、そのかなりの部分が詐病若しくは心因的要因によるものとせざるを得ないとされることは、前認定のとおりであり、右のような事情を考慮すると、反訴原告の後遺障害は、自賠法施行令別表掲記の後遺障害等級第一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)程度とするのが相当である。

三  請求原因4(損害)について

1  治療費 四六万六四五一円

反訴原告が、河北病院における治療費として一〇八万八五二〇円及び大手前病院における治療費として九八六〇円を要したことは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない乙第一二号証、第一三号証の二ないし七、反訴原告の本人尋問により真正に成立したものと認められる乙第一三号証の一並びに弁論の全趣旨によれば、右のほかにも反訴原告が河北病院、城北市民病院、前野整形外科における治療費として合計六万七七四九円を要したことが認められる(以上合計一一六万六一二九円)が、前記認定のとおり本件事故の寄与率が四割であるから、右治療費のうち、反訴被告らの負担とすべきは、四六万六四五一円(一円未満切り捨て)となる。

2  入院雑費 三万二二四〇円

前認定の症状経過に前記寄与率を勘案すると、相当損害として反訴被告らが負担すべき入院雑費は、一日一三〇〇円に入院期間六二日を乗じた八万〇六〇〇円のうちの四割である三万二二四〇円とするのが相当である。

3  通院交通費 一一万五三七六円

前掲甲第一〇号証、第一二号証ないし第一四号証、第一六号証、乙第一二号証、第一三号証の一ないし七成立に争いのない乙第一一号証、反訴原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二二号証及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告がその主張する通院交通費二八万八四四〇円を要したことを認めることができるが、前記認定のとおり本件事故の寄与率が四割であるから、右交通費のうち、反訴被告らが負担すべき額は、一一万五三七六円となる。

4  休業損害 金四七五万一一三七円

成立に争いのない乙第四号証の一ないし三、第五号証、第二一号証、前掲乙第二二号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故当時、タクシー会社に勤務する傍ら、不動産紹介のアルバイトをしていたことが認められるが、それによる総収入額が必ずしも明確でないうえに、前記認定のとおり、反訴原告は、昭和六〇年七月ころから、右上肢脱力感や頸部運動制限を訴えて、本件事故当時に至るまで阪本病院へ通院していたうえに、事故直前三か月におけるタクシー会社での通常可動日数が僅かに四日しかないことに照らすと、反訴原告は、本件事故当時、昭和六〇年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子四〇ないし四四歳の平均賃金の約八割に相当する年額四一六万円程度の収入を得ていたものと認められるところ、本件事故も一因となつた症状の治療のため、本件事故後通院を開始した昭和六〇年一〇月二八日から前記最終の症状固定日である昭和六三年一一月二日までのうち、反訴原告主張の三四か月と八日の間、休業を余儀なくされたものと認められ、さらに前記認定の本件事故の寄与率からすると、反訴被告らに負担させるべき休業損害は頭書金額となる。

(計算式)

(4,160,000 12×34+4,160,000 365×8)×0.4=4,751,137(小数点以下切り捨て)

5  後遺障害による逸失利益 金三〇七万八一二三円

前記認定のとおり、本件事故と相当因果関係のある後遺障害の内容・程度に照らせば、経験側上、反訴原告は、症状固定時において、その労働能力を一四パーセント減殺されていたものと認めるのが相当である(なお、本件事故当時の身体状況については、前記のとおり収入水準において勘案しているので改めて考慮しない。)ところ、反訴原告は、症状固定時である昭和六三年一一月二日(四五歳)以降、就労可能な二二年間にわたり、前記の本件事故当時の収入水準のうちの右割合に相当する部分を逸失したことになり、かつ、その寄与率は四割であるからこれによる損害は、ホフマン計算法により中間利息を控除して計算すると、頭書金額となる。

(計算式)

4,160,000×0.14×0.4×(15.9441-2.7310)=30,738,123

6  慰謝料 金二二〇万円

反訴原告の前記入通院及び後遺障害の内容・程度並びに本件事故の寄与率を総合勘案すると、本件事故に関する反訴原告の慰謝料は二二〇万円をもつて相当と認める。

五  損益相殺

損益相殺に関する各抗弁事実は当事者間に争いがなく、合計六二四万九四四〇円が填補済みであるから、弁護士費用を除く未填補損害は合計四三九万三八八七円となる。

六  弁護士費用 金四五万円

本件事案の内容、訴訟活動等諸般の事情を勘案すると、本件に関し反訴原告が要した弁護士費用のうち四五万円を、本件事故による相当損害の一部として反訴被告らに負担させるのが相当であると認められる。

七  むすび

よつて、反訴被告吉川は不法行為責任(民法七〇九条)に基づき、反訴被告会社は運行供用者責任(自賠法三条)に基づき、各自、反訴原告に対し、四八四万三八八七円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和六〇年一〇月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による金員を支払う義務がある。

以上のとおり、反訴原告の請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余の請求は棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき民訴法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民 松井英隆 佐茂剛)

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